【コラム】曇りの日が教えてくれる「片頭痛持ち」のサイン

「今日はなんだか頭が痛いな」と思ったとき、ふと天気を気にしてみると「やはり天気が悪かった」という経験はありませんか。このような天気による頭痛に悩まされたとき、天気が原因だから仕方がないと考えるかもしれません。しかし、もし、その症状を改善する方法があるとしたら、どうでしょうか。このコラムでは、気象病の仕組みや、その病気と上手に向き合っていくコツをご紹介していきます。

1.天気が悪くなると体調悪くなる気象病

1-1. 気象病ってどんな病気?

季節の変わり目や梅雨、また台風シーズンなど、雨や曇りなどの天候悪化とともに、頭痛やめまい・身体のだるさを感じたり、もともと持っている関節痛や神経痛などの持病の症状が悪化したりすることがあります。「雨が降ると古傷が痛む」という話は昔からよく聞きますし、中には、首や肩のこり、腰痛、耳鳴り、気分の落ち込みを感じる方もおられるでしょう。

実は、これらの症状は科学的に立証されており、気象の変化によって症状が悪化するものを「気象病」、その中でも痛みを伴う症状を「天気痛」と呼んでいます。気のせいじゃなく、天気が悪くなると体調が悪くなるのは当たり前だったんですね。


1-2. 症状が出やすい人とは?

気象病は、男性より女性のほうに症状が出やすいと言われています。これは女性ホルモンの変動が影響しているからです。また、自律神経の働きも関与するため、ストレスを感じやすい人や、生活リズムが崩れている人、食生活が乱れている人、睡眠が不規則な人などにも症状が出やすい傾向があります。

2. 気象病の原因、それは「気圧」

ではなぜ、気象の変化によって体調が悪くなるのでしょうか。気象の変化は具体的に、気圧・温度・湿度などの変化を伴います。これらが私たちの身体にどのような変化をもたらすのでしょうか。

気圧、温度、湿度などの気象の変化の中で、私たちの身体に最も影響する要素は気圧だと考えられています。気圧の変化によって、自律神経である「交感神経」と「副交感神経」のバランスが崩れることが気象病の原因とされています。さらに近年、これには「内耳」の気圧センサーが大きく関与していることが研究によって明らかになってきました。

内耳にあるセンサーが気圧の変化を感知すると、脳は自律神経にその信号を出し、身体を気圧に順応させようとします。この際、気圧センサーが過剰に反応してしまうと自律神経のバランスが乱れ、さまざまな不調を引き起こすことがわかってきたのです。

自律神経が正常に機能していれば、気圧の変化によって血管が膨張したり収縮したりしても調整機能が働くため、元の状態を維持できます。一方、自律神経のバランスが乱れると、調整機能が働かずに交感神経優位となり、頭痛やめまい、肩こりなどを引き起こしやすい状態になります。

3. 気象病によって頭痛が起こる原因

 天気痛の中で、特に一番多く見られる症状は頭痛です。頭痛にはいくつかの種類があります。その中で天候の影響を受けやすいものに「片頭痛」と「緊張型頭痛」の2つが挙げられます。ここでは、気象病によって頭痛が起こる原因や、そのメカニズムを見ていきましょう。

3-1.片頭痛

ドクンドクンと脈を打つような痛みが特徴的な「片頭痛」の原因には諸説あり、はっきりとした原因は明らかになっていませんが、脳の血管の拡張が一つの原因と言われています。気圧が低くなることで血管が膨張し、血管の周囲の三叉神経を圧迫することで「片頭痛」が引き起こされるというものです。「片頭痛」は20〜40歳代の女性に多いと言われており、その原因の4番目に天候の変化が挙げられています。

3-2.緊張型頭痛

一方、「緊張型頭痛」は一般的に、身体のこりや筋肉の緊張によって血行が悪くなることで、後頭部の筋肉が縮んで引き起こされる頭痛と言われています。急激な気温や気圧の変化によってセロトニンが大量に分泌されると血管が収縮するため、緊張性頭痛が誘発されます。また、頭痛による痛みがさらに血管を収縮させ、症状をより悪化させるという悪循環を起こすことがあります。

4. 日本人の半数が気象病?!天気が悪いと頭痛の症状が出る人の割合 

これまでは「気のせい」だと言われていた気象病ですが、最近の調査によってその科学的根拠が明らかになるにつれ、実に多くの人がこの病気に悩まされていることがわかってきました。では、実際に気象病の症状を持っている人はどのくらいの割合で存在しているのでしょうか。

株式会社ウェザーニューズが全国1万9,897人を対象に行った「天気痛調査2023」に、男性の53%と、女性の85%が天気痛を「持っている」または「持っている気がする」と回答しています。そして、その最も多い症状として8割以上の人が「頭痛」を挙げています。これは日本人の2人に1人が、気象病として頭痛症状を持っているということになります。また、3人に2人は「月に数回程度の発症」と回答している一方で、3人に1人は「週に2回以上悩まされている」と回答しています。その発症の頻度は女性のほうが高く、また若い世代ほど高い傾向にあることも報告されています。

また、ロート製薬が全国1.6万人に行った調査では、「天気痛は平均週2日発症、5人に1人が生活への支障あり」
ということが分かりました。

https://www.rohto.co.jp/news/release/2020/0716_01/

日頃から頭痛に悩まされている方は、意外と多くの方々が頭痛症状を有しているという事実を知っただけでも、気持ちが少し軽くなられたのではないでしょうか。

5. 気象病対応策

では、実際に気象病の症状が現れた場合は、どのように対処したらいいのでしょうか。また、症状が出る前にできる予防策はあるのでしょうか。

5-1. 気象病発症後の対処方法

痛みの症状が現れているときは、まずは無理をせず身体を休めましょう。
「片頭痛」と「緊張型頭痛」ではそれぞれ原因が異なるので、対策方法も異なります。例えば、「片頭痛」が起きたときは血管拡張を抑えると効果的なので、冷やすことで痛みが和らぎます。

一方、「緊張型頭痛」は血管が収縮したり筋肉が緊張したりしていることが原因ですので、冷やすより温めるほうが効果的です。適度な運動も症状の改善や予防に役立ちます。また、内耳の血行を良くするために耳を温めたり耳マッサージをしたりすることは、どちらの頭痛にも効果的です。

5-2. 気象病発症予防となる身体づくり

自分ではコントロールすることのできない天候の変化ですが、日常から規則正しい生活習慣を心がけることで、その影響を最小限に抑えることは可能です。

バランスの取れた食事と規則正しい十分な睡眠をとり、適度な運動をして気分をリフレッシュするなど、自律神経を整え、気象変化の影響を受けづらい体質に改善していくことを心がけると良いでしょう。

6. 鎮痛薬・漢方薬・抗めまい薬による治療

6-1.医療機関の受診

たかが頭痛と軽く見てはいけません。痛みがつらい場合には我慢せず、頭痛外来などの適切な医療機関への受診を検討したり、鎮痛薬などを服用したりすることが大切です。

とはいえ、鎮痛薬を常用し過ぎると耐性ができてしまう危険性がありますので、自己判断での服用には気をつけましょう。鎮痛薬を服用することに抵抗がある方や、根本から体質改善をしたい方には、自身の症状に合わせて漢方薬を取り入れてみることもお勧めです。

6-2.痛み日記を書く

また、「痛み日記」をつけることは、気象病の症状が現れる条件を客観的に把握できるようになるのでお勧めです。天気・気圧の変化などの気象情報や、その時々の痛みの程度、症状の詳細などを記録してみましょう。

自身の痛みが現れる条件の傾向がわかれば、不調が出る前に対策を講じることで痛みの程度や憂鬱な気分を軽減することが可能になります。また、「痛み日記」は医療機関を受診する際に持参すると、医師に提供する客観的データとなるため大変役立ちます。気象病でお悩みの方は1カ月ほど「痛み日記」をつけてみることをお勧めします。

 さいごに

天気の変化とともに何気なく過ごしている毎日ですが、天気が私たちの身体に及ぼす影響は思われている以上に大きなものです。憂鬱に感じがちな気象病も、自身の体質や症状が出るときの傾向を知って適切な対策をすることで、上手に付き合えるようになります。不安な気持ちを手放して、快適な日々を過ごすためにも、対策できることから実践していきましょう。

また、天気が悪くなると頭痛が起こる現象は、片頭痛持ちの兆候と考えてよいでしょう。低気圧が「あなたは片頭痛持ちですよ」と教えてくれているサインでもあります。片頭痛を悪化させないため種を早期から摘み、根本から改善を希望される方は是非お気軽に相談してください。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。同年、博士号取得。
1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員