【コラム】生理のときの頭痛。それ、月経時「片頭痛」かも!
生理痛の代表的な症状には、腹痛や頭痛があります。腹痛が起こるのは分かるけど、生理で頭痛が起こるのはなぜだろう?と思ったことはありませんか?それは、生理痛や月経前症候群(PMS)の症状ではなく、「片頭痛」かもしれません。ここでは、生理で片頭痛が起きるメカニズムについてお話しします。
1.生理痛について
1-1.生理痛とは?
生理が起こるしくみは、まず、卵巣内で卵胞を育てる「エストロゲン」と呼ばれる卵胞ホルモンが働き、排卵の準備を整えます。卵巣から押し出された卵子が、卵管を通り子宮に運ばれると、今度は「プロゲステロン」である黄体ホルモンが分泌されます。子宮内膜全体を厚くして妊娠の準備を整えます。精子が着床せずに妊娠しなかったとき、子宮内膜が形成されても内膜がはがれて血液と一緒に体外に排出される働きが「生理」です。生理が起こると、子宮口から内膜や血液が排出される際に、下腹部痛などの痛みが起こります。
1-2.代表的な生理痛の症状ー痛みの原因は「プロスタグランジン」
生理痛と混同されやすい症状にPMS(月経前症候群)があります。PMSは生理の3〜10日前にだけ感じる不調で、生理がくると症状がなくなります。一方、生理痛は月経の出血が続いている約3〜7日の期間に感じられる痛みの総称です。痛みの原因になっているのは「プロスタグランジン」という物質です。この物質が分泌されることで子宮の収縮を促します。生理痛の症状には下記のようなものがあります。
■腹痛・腰痛・下痢
生理中に生成されるプロスタグランジンが原因で、下腹部や腰に痛みが生じ、下痢や吐き気が起きる人もいます。
■頭痛
エストロゲンの作用で、生理開始前後に片頭痛を発症する場合があります。
※生理前から生理中にかけて発生する頭痛は一見PMSと思われがちですが、片頭痛の場合が半数以上です。
■貧血
生理中の経血量が多いと貧血になり、顔色が悪くなったり、めまいが起きたりすることがあります。
■イライラ・憂鬱感・怒りっぽい
ホルモンの変化などによって、感情が不安定になります。※症状が生理前から続き生理開始後に落ち着くようであれば、PMS(月経前症候群)かもしれません。
2.生理周期による頭痛=月経時片頭痛
生理のときだけ頭痛が起きるという女性もいらっしゃるかもしれません。この頭痛は生理による症状だろう」と考えてしまうことがあるかもしれませんが、実は、そうではなく、片頭痛を発症している可能性もあります。この頭痛のことを「月経時片頭痛」と呼びます。
2-2. 月経時片頭痛の原因-エストロゲン
近年の研究では、片頭痛と女性ホルモンには深い関係があると考えられています。
生理が始まる数日前や生理中に頭痛を発症する女性は多いようです。これらはいずれも月経周期において女性ホルモンが低下するタイミングに当てはまります。女性ホルモンにはエストロゲンと呼ばれる卵胞ホルモンとプロゲステロンと呼ばれる黄体ホルモンの2つがあります。これらのホルモンの分泌量が約1ヶ月で増減し、月経を起こします。
エストロゲンの分泌は次の4段階を繰り返しています。
- 排卵前をピークに発生
- 排卵が終わると急速に減少
- 減少後に、また増加
- 生理前に再び減少
エストロゲンは前回の生理が終わるや否や、排卵に向けて増え、排卵時に急激に減るという性質を持っています。その後また増加し、次の生理に向けて減少するというサイクルを繰り返します。排卵が終わってエストロゲンが急に減少するときと、生理前に再び減少するときに、脳内血管が拡張して周りの神経を刺激し、頭痛が起こると言われています。
2-2. 月経時片頭痛の特徴
月経時片頭痛には以下のような特徴があります。
・前兆があまりない
・頭痛発作の持続時間が長い
・吐き気などの症状が強く出る/頭痛が起こる前に吐き気を催すことも
・じっとしているときと比べて体を動かしたときのほうが、痛みが強くなる
・一旦よくなってもまた再発する
・痛み止めが効きにくい
・拍動に合わせてズキンズキンと痛む。
・目がチカチカすることがある。
月経時片頭痛は、通常の片頭痛よりも症状が長く続き、痛みが強い傾向があります。
3. 生理周期によって頭痛が起こることによる経済的損失
生理周期によって片頭痛が起こることも多いとされており、と経済的な損失が発生することがわかっています。日本での、頭痛が起こることによる経済的な損失は、片頭痛による労働中の作業の妨げや休業・欠勤によって年間3,600億円から2兆3,000億円の経済損失が発生していると推計されています。
<参考>Shimizu T, et al: Disability, quality of life, productivity impairment and employer costs of migraine in the workplace. J Headache Pain 22(1): 29, 2021.
参照 https://www.niigatashi-ishikai.or.jp/newsletter/academic/202304266452.html
また、日本人全体での片頭痛持ちの方の割合は、8.4%と言われています。片頭痛持ちの方の割合を性別で分けると、男性は3.6%で女性は12.9%であり、女性のほうが男性の4倍も片頭痛持ちが多いということがわかります。
<参考>Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.
4.月経時片頭痛の鎮痛剤について
4-1. 服用のタイミングは痛みを感じたら「すぐ」
生理のときに片頭痛を発症したら、鎮痛剤を服用するという方法があります。頭痛薬に含まれる代表的な成分には、
・イブプロフェン
・アセトアミノフェン
・アスピリン(アセチルサリチル酸)
・エテンザミド
などがあります。これらの多くは、痛みの原因となるプロスタグランジンの生成をブロックします。そのため、痛みを少しでも感じたら「すぐ」に服用するのがポイントです。早めに頭痛薬を服用することでプロスタグランジンの生成を抑え、痛みの緩和につながります。
4-2. 服用の注意点
注意点としては、「予防」として服用しないことです。薬物乱用頭痛につながりかねないので、絶対に止めましょう。また、頭痛を抑えるため頻繁に鎮痛剤を服用するときは、医師に相談した方がいいでしょう。
4-3.生理痛がひどいときの病気の可能性
生理痛がひどい状況というのは、例えば鎮痛剤を服用しても痛みが引いていかない場合や、日常生活に支障が出てしまうほどの痛みを生じている場合などです。このような状況のときは、通常の生理痛ではなく、以下に挙げる子宮の病気である可能性が考えられます。
- 子宮内膜症
- 子宮筋腫
経血の量がいつもよりも多かったり、生理痛の痛みがひどかったりして、いつもの生理と違うと感じたら、婦人科を受診することをおすすめします。
さいごに
生理周期による片頭痛の原因や特徴についてお話ししました。あきらめない頭痛クリニックでは月経(女性ホルモン)に関連した片頭痛に特化しております。通常の治療薬だけでなく、漢方での改善実績がございます。クリニックとしても女性の社会進出と活躍をサポートしていきたいと思っており、力を入れております。お悩みの方は是非気軽に相談してください。
この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年
1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。同年、博士号取得。
1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。
<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員