【コラム】頭痛の悩み、放置するとうつ病に?そのメカニズムとは。

病気で悩んでいる人は、病気のない人に比べると、心の病気にかかりやすいと言われます。それは痛みに対するストレスや、落ち込みが原因です。がんや慢性疾患など命に関わる重篤な病気だけでなく、頭痛のような疾患でも起こります。頭痛持ちの方は、まさか自分の頭痛が心の病気につながるとは想像したこともないでしょう。ここでは、そのメカニズムについて解説します。頭痛で悩んでおられる方は、頭痛の悩みを放置すると起こるリスクの1つとして知っておいてほしいと思います。

1. ストレスから来る頭痛、頭痛から来る心の病気

頭痛には精神的なストレスが関係していると言われます。その代表的な2つと、頭痛から引き起こされる心の病気を見てみましょう。

1-1. 緊張型頭痛

まず、名前からも想像しやすい「緊張型頭痛」。この頭痛は、長時間同じ姿勢を取るなどで引き起こされる身体的ストレスが1つ原因になっています。頭の横の筋肉や、肩や首の筋肉が緊張し、血流が悪くなった結果、筋肉に老廃物が溜まり、その周囲の神経が刺激されて痛みへとつながります。また、環境の変化による精神的ストレスも関与します。これは、ストレスで神経や筋肉が過度に緊張し、筋肉に疲労物質がたまり、脳内の痛みの調整機能がうまく働かなくなるためです。

1-2. 片頭痛

寝過ぎ、寝不足、女性ホルモン、空腹、疲労、光や音の強い刺激。片頭痛の原因にはさまざまなものがありますが、ストレスもその一つです。頭痛がストレスと関与している場合、「血管の拡張」が理由として考えられます。何らかの理由で脳の血管が急激に拡張すると、周囲の三叉(さんさ)神経が刺激されます。この際発生する炎症物質がさらに血管を拡張させ、痛みを引き起こします。この血管の拡張には、ストレスだけでなく、自律神経やホルモンバランスなど様々な要因が関わっています。

緊張型頭痛との大きな違いは、緊張型頭痛が神経や筋肉の「緊張」が原因であるのに対して、片頭痛は「血管の拡張」となる点です。また、症状の出方にも違いがあります。緊張型頭痛は、長時間PCなどで労働した後、夕方以降に起こることが多いようです。一方、片頭痛は、心身のストレスから解放されたときに急に拡張し、仕事のない週末などに起こります。

1-3. 頭痛が引き起こす心の病気

上記に挙げた2つの頭痛と同列になりませんが、片頭痛が原因となって心の病につながるケースを知ることは、頭痛持ちの方にとって重要なことです。頭痛が頭痛だけでとどまらずに心の病気につながる理由を見てみましょう。

2. 頭痛から心の病気?その原因は?

2-1. 神経伝達物質セロトニン

うつ病の原因の一つとして代表的なのが、脳内の神経伝達物質であり幸福感や情緒の調節に関与する「セロトニン」。片頭痛とセロトニンの関係性はまだまだ研究中のため、原因は完全には解明されていませんが、頭痛を発症すると、セロトニンのレベルが低下するということが分かっています。これは職場や人間関係のストレスでセロトニンが低下するのと同じように、頭痛が日常で大きな悩みとなっているためでしょう。「また明日頭痛が起きたらどうしよう」「頭痛が辛い」「早く抜け出したいのに治らない」このような悩みが、セロトニンを低下させ、脳内の異常な状態を引き起こしています。近年の研究でも、頭痛によって気分が落ち込み、結果としてうつ病や不安障害(パニック障害等)などの心の病気を招くことが分かっています。

2-2. セロトニンの低下はますます頭痛を悪化させる

頭痛の悩み→セロトニンの低下の悪循環は、ますます頭痛を悪化させてしまうことがあります。痛みの調節も担っているセロトニンが不足すると、痛みを強く感じるようになります。

3. 薬物使用過多頭痛もうつ病の引き金に

「薬物使用過多頭痛」は、別名「薬物乱用頭痛」とも呼ばれます。頭痛薬の服用のし過ぎで起こる頭痛のことです。

薬物乱用頭痛には「心理的な要因」と「行動的な要因」が深く関わっているとされています。特に、片頭痛持ちで薬物乱用頭痛になった方は、気分障害や不安障害などの心の病を伴うことが多いです。また、これまで心の病気にかかったことのない方でも、過去に体験した頭痛に対する不安や恐怖感の強い方は、「頭痛を回避したい」と考え鎮痛剤を予防薬のように使うことも。確かに痛みが出始めたらすぐに服用した方がいいですが、あまりにも必要以上に早めに服用したり、必要以上に多く服用したりするため、薬物乱用頭痛を招く可能性が高いです。

4. 片頭痛をうつ病につなげないためにできること

片頭痛からうつ病に発展させないためには、セロトニンのレベルを上げることが重要です。病院で処方される薬には、セロトニンの再取り込みを阻害することで、セロトニンのレベルを上げるものもあります。セロトニンを増やすための自然療法やライフスタイルの変化も有効でしょう。

5. 頭痛と心の病に認知行動療法からアプローチする

心の問題と深い関係がある片頭痛や緊張型頭痛などにおいて、認知行動療法が取り入れられることがあります。認知行動療法とは「うつ病などの様々な心の病に対する有効性が医学研究により立証されている心理療法」のことで、最近では慢性的な痛みの治療法としても注目されています。

「認知」とは、その人がもつ特徴的な物事の捉え方や考え方のことで、この認知にゆがみがあると、「痛みに対して無力であり、価値がない」と考えるようになり、それがさらに頭痛の症状と心の状態の悪循環を作ってしまいます。

「頭痛のせいで会社を休んでしまった。自分はだめな人間だ」と考えてしまう人がいると仮定します。認知行動療法ではこのような方に、「他の考え方はありませんか?」「なぜ自分は駄目なんですか?」と問いかけていきます。その方の「認知」と、痛みに対してとる「行動」に介入し、認知のゆがみを修正することで痛みにアプローチしていく。それが、認知行動療法です。

さいごに

頭痛持ちの方には、「たかが頭痛」と考えて鎮痛剤を飲んでその場しのぎを繰り返している方も多いでしょう。しかし、このような状態を続けていくと、「薬を飲んでも飲んでも効かない」という状況になりかねません。また、その過程で「頭痛が治らない、どうしよう」「会社を休めない」といったプレッシャーをさらに持つようになり、セロトニンの低下から最悪の場合うつ病を発症しかねません。頭痛持ちで現状それほど症状がひどくない方も、頭痛がうつ病につながるとは想像し難いかもしれませんが、実はこのようなリスクをはらんでいるということを頭の隅に入れていただき、頭痛と向き合ってほしいと思います。あきらめない頭痛クリニックの院長田村は、自身がうつ病を発症した経験から、精神科領域の研究も20年間行ってきましたので、是非お力になりたいと考えております。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。
同年、博士号取得。

1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員