【コラム】アブセンティズムとは?原因・労働生産性との関係・対策方法を解説

アブセンティズム(absenteeism)は、近年の健康経営推進により、多くの事業者から注目を集めています。本記事では、アブセンティズムに関して、用語の意味・原因から、労働生産性損失の関係性・対策方法まで幅広く解説していきます。健康経営への着手を検討している事業者様など、ぜひ最後までご覧ください。

1. アブセンティズムとは

アブセンティズムは、直訳すると「常習欠勤」であり、日本において使用される場合、「従業員が心身の不調を原因として、会社を欠勤している状態」を指します。アブセンティズムが多く発生している企業は、生産性の低下や人材不足、従業員の労働意欲の低下を引き起こす可能性があります。また昨今経営課題として重要視されている『健康経営』の推進によって、多くの事業者にとって身近な問題となりました。

※同列課題として捉えられている「プレゼンティズム」に関しては、『プレゼンティズムとは?原因・企業に与える損失・対策を解説』にて詳細に解説しています。合わせてご確認ください。

1-1. 一般的な「欠勤」との厳密な違い

アブセンティズムの意味として「欠勤」を使用することが散見されますが、厳密には間違いです。欠勤には多くの要因があり、例えば家庭の事情や長期旅行など様々あります。

一方で、アブセンティズムが指す「欠勤」は、従業員の健康問題によるものです。したがって、正しい意味としては「病気欠勤」や「心身の不調による欠勤」とするのが良いでしょう。

細かな違いにはなりますが、「通常の欠勤」は改善が難しいのに対して、アブセンティズムは企業努力で一定の改善が見込めます。

1-2. 測定方法

アブセンティズムは一見すると数値化できない指標に思われますが、測定可能です。

経済産業省が公表している「健康投資管理会計ガイドライン」では、以下の3つの測定方法が紹介されており、いずれもアブセンティズムの発生状況の把握に繋がります。

・従業員へのアンケート調査

・欠勤、休職日数

・疾病休業者数、日数

3つの中で特に正確なアブセンティズム発生状況を把握できるのは、「従業員へのアンケート調査」です。内容は「昨年(または今年)のうち、”何かしらの病気が原因で”仕事を休んだ日数」を申告してもらいます。

通常の勤怠管理では、病気が原因かどうかの判断はできません。そこでアンケート調査を行うことで、アブセンティズムの発生数を絞り込むことが可能です。

ただし、アンケートは個人の情報に触れる場合があるため、匿名で行うことをおすすめします。データの取り扱いにも注意するようにしましょう。また、昨年以上前になると記憶が曖昧になり、正しい情報が収集できなくなるリスクもあるため、できれば昨年または今年で調査するのがおすすめです。

※測定方法についての詳細は『プレゼンティズム・アブセンティズムを数値化!測定方法を解説!』で解説しているので、こちらも合わせてご確認ください。

1-3. アブセンティズムと労働生産性損失の関係性

アブセンティズムの発生状況が測定できれば、企業全体の労働生産性損失の関係性を計算することができます。計算式は以下の通りです。

労働生産性損失額(円)= アブセンティズムの合計日数 × 1日の賃金(円)

例えば、100人の企業があるとします。調査の結果、全従業員のアブセンティズムの合計が200日と分かり、従業員の1日の賃金(ここでは平均値として)が10,000円とします。この場合、1年で200万円の労働生産性損失を出してしまっていることとなります。

このように、アブセンティズムは損失額として定量的に分析できるため、健康経営の課題の中でも比較的取り組みやすいとされています。

2.アブセンティズムが発生する主な原因

アブセンティズムの原因は、大きく分けて2つあります。怪我や病気などの「身体的不調」と、うつや不眠などの「精神的不調」です。

頭痛、花粉症などのアレルギー症状、腰痛や関節痛、鼻づまりなどの身近な病気でもアブセンティズムが発生する可能性はありますが、多くは出勤を止めるまでには至りません。しかし、それらが重度の症状を伴う場合にはアブセンティズムに発展する可能性は高まります。さらに女性特有の月経・月経前症候群も、症状が重い方の場合は欠勤に繋がることも。

欠勤に至った理由が、自己判断や医師判断かは関係なく、心身の不調が原因で欠勤となった場合は、アブセンティズムと区別されます。また、経済産業省が定義する「健康問題」には、インフルエンザも含まれているため、感染によって欠勤を強制した場合もアブセンティズムと区別した方がよいでしょう。

3. アブセンティズム改善の具体策

アブセンティズムの改善は、どの企業も取り組むべき経営課題です。ここからは改善に向けた具体策について目を向けましょう。

3-1. 適切な勤怠管理

具体策1つ目は、適切な勤怠管理です。

通常、勤怠管理は「いつ」「どのくらい」働いたかのみを記載します。ここに「なぜ」という要素を加えることで、欠勤した理由を把握することが可能です。例えば、欠勤理由の多くに「頭痛」がある場合、頭痛に悩む人が多いことが分かるため、通院の推進やオフィス環境の整備が必要であるといったように、具体策が浮き彫りになります。

適切な勤怠管理を行うためには、専用のシステムを導入するとよいでしょう

3-2. 従業員の健康意識向上

具体策2つ目は、従業員の健康意識向上です。

アブセンティズムの原因となる健康問題は、例えば、生活習慣の乱れ、睡眠不足、運動不足、ストレス対応不足などを起因として発生することがあります。これらは当人の意識改革無くして、根本的な解決には至りません。

経済産業省が定義する『健康を保持・増進する7つの行動』には、快適性を感じること、コミュニケーションをとること、休憩・気分転換をすること、身体を動かすこと、適切な食行動をとること、清潔にすること、健康意識を高めること、が重要であると提言しています。これらは企業が従業員に強制しても意味がありません。「健康のため」という意識のもと、一人ひとりが行動に移すことで、アブセンティズムの発生確率を減らすことに繋がります。

企業として健康経営の推進に取り組んでいることや、具体的な健康維持の方法などを企業が積極的に従業員に周知し、定期的に効果を測定していくことが重要です。

3-3. 職場環境の整備

具体策3つ目は、職場環境の整備です。

例えば、通気性の良いオフィスにすることや、ストレスを感じづらい環境をつくることは、従業員の健康維持に結び付きます。他にも、ヘルスケアアプリを導入することや、健康的な社食メニューをつくることも良いでしょう。

従業員の意識改革だけでは限界があります。企業がサポートすることで、健康増進に向けて大きく前進し、結果的にアブセンティズムの削減に繋がるでしょう。

さいごに

日本において健康経営が推進されている昨今において、アブセンティズムは全ての企業が取り組むべき経営課題です。健康経営の課題は可視化しづらいデメリットがありますが、アブセンティズムは損失額という定量的な数字も導き出せるため、取り組むハードルは比較的低いでしょう。まずは社内のアブセンティズム発生状況を把握し、そのうえで適切な改善策を実行することが求められます。健康経営の促進を検討している、低い生産性に悩んでいるといった事業者様は、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。同年、博士号取得。
1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員