【コラム】発作間欠期とは?知るべき片頭痛の二次症状

片頭痛は「頭痛症状」だけではなく、「発作間欠期」にも目を向けて、適切な処置をしなければなりません。本記事では、片頭痛の発作間欠期に焦点を当てて、深掘りしていきます。片頭痛の症状で悩んでいる方、少しでも症状を軽くしたい方などは、ぜひ最後までご覧ください。

1.片頭痛の基礎知識

片頭痛とは、頭部の血管が拡張することで、頭の片側または両側がズキズキと痛む症状のことです。ストレス、睡眠不足、過度な飲酒、気候や気圧の変化、女性特有のホルモンバランスの関与などが原因で発症し、吐き気や嘔吐を伴う場合もあります。

北里大学医学部の文献『日本における片頭痛の有病率:全国調査(※)』によると、本国における片頭痛で悩む人の割合(年間片頭痛有病率)は8.4%にものぼります。その中の74.2%の片頭痛患者は、症状により有意な日常活動の阻害があると回答しました。また、患者の男女比は、男性が3.6%、女性が12.9%と、女性の方が約3.5倍の患者がいるとされます。

さらに、片頭痛患者の69.4%は、症状による受診をしたことがないと回答しました。多くの人を悩ませる症状である一方で、低い受診率であることから、処置に対して強い関心がないことが分かります。

※:Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997

2. 片頭痛の問題は「頭痛症状」だけではない?「発作間欠期」とは

片頭痛の問題は、多くの場合「頭痛症状だけ」とされますが、実はそれは間違いです。

片頭痛を、頭痛症状がある日、頭痛症状がない日に分けて考えましょう。1ヶ月を30日とし、頭痛症状がある日が10日、頭痛症状がない日が15日とします。この場合、5日間余ることになり、この期間は「片頭痛が来る不安がある」「また片頭痛にならないように気を付けて行動する」といったように、どこかすっきりしない状態で過ごす患者が多いです。このような、片頭痛の頭痛症状が収まってから、次の発作が始まるまでの期間を「発作間欠期」といいます。

昨今では、片頭痛の問題は発作間欠期も含めて考えることの重要性が浸透しつつあり、この期間に対する適切な処置も施され始めています。

片頭痛の発作間欠期の悩みは、例えば以下などがあります。

・不安:「次に片頭痛の症状で苦しむのが怖い」「次に片頭痛の症状が始まると仕事やプライベートで多くの人に迷惑をかけるかもしれない」

・制限:「頭痛の原因になり得る行動(飲酒や夜更かしなど)を避ける」「頭痛発生で迷惑をかけないように予定を制限する」

・気持ちの落ち込み:「片頭痛の症状で悩む自分が嫌になる」「次の片頭痛が発生するのが嫌で落ち込む」

・生産性の低下(主に仕事):「どこか気分がすっきりせずに仕事に集中できない」

いずれも片頭痛から派生した、二次的な症状といえるでしょう。

3. 発作間欠期に悩む患者の割合

日本イーライリリー株式会社(本社:兵庫県神戸市、代表取締役社長:シモーネ・トムセン、以下「日本イーライリリー」)が発表した調査『片頭痛発作がない時(発作間欠期)に関する患者と医師への意識調査結果発表』によると、片頭痛患者の75%が、片頭痛発作がない時(発作間欠期)の困りごと・支障を抱えていると回答しました。これは、片頭痛発作がある時の困りごと・支障を抱えている患者83%と大差ない数字です。

つまり、頭痛と発作間欠期はほとんど同じ規模で発生している片頭痛症状であり、両者は同列で処置を行うべき対象であるといえるでしょう。データからも、発作間欠期の処置の重要性が伺えます。

4. 発作間欠期を放置する課題

発作間欠期を放置することは、以下のような課題を発生させる原因となります。

・生活の質(QOL)が低下する

・仕事の生産性が低下する

・不安やうつ病のリスクが上昇する

どういうことか。それぞれ詳細に見ていきましょう。

4-1. QOLが低下する

QOLとは、Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)の略で、生活の質・人生の質と訳されます。具体的には、人々がどれだけ不安や身体的な苦痛がなく、人間らしい生活や自己実現を達成できているかを測る尺度・概念です。

発作間欠期の症状である「日々の不安」や「したいことを避ける制限」は、QOLを直接的に低下させる要因となります。日本におけるQOLは、発展途上国などと比較して高いとされますが、多くの人が悩みを抱える片頭痛の発作間欠期への対処をおろそかにすることは、日本全体のQOL低下も懸念されるでしょう。

4-2. 仕事の生産性が低下する

心身の不調が原因で普段通りの業務ができない状態のことを「プレゼンティズム」、心身の不調が原因で欠勤状態にあることを「アブセンティズム」といいます。これらは多くの企業の生産性を低下させる要因となっていますが、プレゼンティズムやアブセンティズムを発生させる主な症状の1つに、片頭痛および片頭痛の発作間欠期があります。

企業の観点では生産性の低下は避けたいところですが、個人に目を向けても「普段の仕事ができないことによるストレス」「組織に迷惑をかけてしまう申し訳なさ」「役に立たないと評価をされるかもしれない不安」といったように、プレゼンティズムや悪化させる可能性も否定できません。発作間欠期は最悪の場合、うつ病に繋がることもあるため、アブセンティズムの発生を伴うこともあるでしょう。

発作間欠期の処置を適切に行わない場合、企業・個人ともに生産性が低下してしまいます。

※プレゼンティズムの詳細は『プレゼンティズムとは?原因・企業に与える損失・対策を解説』を、アブセンティズムの詳細は『アブセンティズムとは?原因・労働生産性との関係・対策方法を解説』を、合わせてご確認ください。

5. 発作間欠期の対策

発作間欠期の適切な対策は、医師とコミュニケーションをとり、自分一人で対応せずに相談することです。

日本イーライリリーの調査によると、頭痛など片頭痛発作がある時の日常生活への影響を主治医に相談している患者は61%なのに対し、発作間欠期の影響を相談している患者は46%に留まります。発作間欠期の相談を控える患者の最も多い理由は「医師に伝えても状況は変わらないと思う・伝えても無駄だと思う」ことです。他にも「頭痛症状の改善を期待している」ことも、相談しない理由にあり、発作間欠期の症状緩和は求めていない人が多いことも分かっています。

しかし、ここまで解説した通り、発作間欠期も多くの人を悩ませる片頭痛の症状の1つです。相談することで、はじめて適切な治療を行うことができ、片頭痛患者の75%が悩む発作間欠期の症状を緩和させる可能性が高くなります。まずは頭痛以外の症状に目を向けること、そして医師に発作間欠期について相談することから始めるようにしましょう。

さいごに

片頭痛の頭痛症状と並び、多くの人を悩ませる発作間欠期。自分は該当しないと考える片頭痛患者でも、実は不安や制限を行ってしまっているケースは珍しくありません。

発作間欠期とは何かを知ることで、まずは自分の症状に目を向ける人が増えること。そして治療への一歩を踏み出し、最終的には片頭痛で悩む多くの患者の発作間欠期症状を少しでも緩和されられることを祈っています。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。
同年、博士号取得。

1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員