【コラム】過敏性腸症候群で頭痛が起こる?原因や治療法について解説

過敏性腸症候群(IBS)で苦しんでいる人は少なくありません。情報過多による社会の複雑化、ストレス社会の進行などを原因として、日本国内における有病率は10~20%と報告されています。(参考:日本大腸肛門病学会)

さらに過敏性腸症候群は、頭痛をはじめとして、様々な症状を誘発することもある、決して軽視できない病気です。ここでは過敏性腸症候群について深く掘り下げていきます。過敏性腸症候群で苦しんでいる方、頭痛など二次被害を改善したい方などは、ぜひ参考にしてください。

1. 過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群とは、検査をしても腫瘍や炎症などの異常が見つからないが、腹部などの不快な症状が繰り返し発生する病気のことです。腹部の症状は様々ですが、腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などが多くみられ、一般に機能障害に分類されます

原因は1つに絞ることが難しく、感情的要素や物質的要素がきっかけとして発生することが多いです。検査をして異常が見つからないと、症状から過敏性腸症候群と診断されるのが一般的ですが、場合によっては他の病気ではないことを検査することもあります。

1-1. 過敏性腸症候群の3タイプ

過敏性腸症候群には、以下の3つのタイプに分類することができます。

・便秘型

・下痢型

・混合型

それぞれの違いを見ていきましょう。

1-2. 便秘型

腹部の違和感や腹痛が頻繁に生じることで、排便回数や便の形状が変化する状態が便秘型とされます。排便がしにくく、便が出たとしても小さな硬い便が出るだけです。

 

便秘型の過敏性腸症候群と一般的な慢性便秘は、症状が酷似していて区別が難しいため、専門医による診断・検査が必要です。また、腸の収縮運動が多く起こることで痛みに繋がると考えられ、以前はけいれん型便秘とも呼ばれていました。

1-3. 下痢型

男性に多く、腹痛と便意によって、水様便や泥状便が頻繁に起こるのが下痢型です。少しでもストレスを感じると発症してしまうため、通勤・通学時をすることを恐れ、不安感を頂き、結果さらに症状を悪化されることも。

腹痛を伴うことが多いので、便秘型よりも日常生活に支障をきたしやすいです。なお、食中毒・食あたりの下痢とは種類が異なります。

1-4. 混合型

便秘型と下痢型の両方の特徴を有し、便秘と下痢が高い頻度で繰り返し発生するのが混合型です。若い世代に多く見られ、便秘が数日間続いた後に固い便が出て、その後は下痢に移行するパターンが多いです。

腹部の不調が続き、コロコロとした固い便が全体の25%以上、下痢が全体の25%以上であれば、混合型の過敏性腸症候群であると考えてよいでしょう。また「型」が移行することもあり、便秘型から混合型、下痢型から混合型となることもあり、そのまた逆もしかりです。

2. 過敏性腸症候群で頭痛が起こることがある?

過敏性腸症候群は腹部の症状だけでなく、合併症として頭痛が発生することも珍しくありません。人間の腸には多くの神経細胞が集まっており、自律神経を経由して脳へと繋がっています。そのため、腸が不調の時は脳にストレスが与えられ、それが腸にも反映される悪循環を招きます。この脳と腸が強く影響し合うことを「脳腸相関」といいます。

過敏性腸症候群から生じる脳腸相関のうち、頭痛に悩む方は多く、片頭痛や生理痛と間違えやすいですが、原因は腹部の不調です。腹部の不調と頭痛が同時に起こりやすい方は、過敏性腸症候群の可能性があります。

2-1. 頭痛以外に起こる得る症状は?

過敏性腸症候群の全身症状としての合併症は、頭痛以外にも主に以下の症状があります。

・倦怠感 ・不安感 ・抑うつ ・不眠

・めまい ・筋肉痛 ・吐き気 ・肩こり

・腰痛 ・動悸 ・頻尿 ・耳鳴り ・疲労感

これらから分かる通り、過敏性腸症候群は腹部の病気ではなく、全身に症状が発生します。どれも放置すれば日常生活に支障が出ることもあるでしょう。決して放置することなく、適切な治療を行うことが重要です。

2-2. 過敏性腸症候群の対処法を知って頭痛など全身症状も緩和しよう

過敏性腸症候群の治療・対処法を行い、腹部の不調から全身症状までを緩和させましょう。主に食事療法・運動療法・薬物療法・心理療法があります。それぞれ解説します。

2-3. 食事療法

過敏性腸症候群の改善でまず取り組みたいのが生活習慣の改善であり、生活習慣改善には食生活の見直しが有効です。食べ過ぎ・飲酒・喫煙・炭水化物の摂り過ぎ・脂質の摂り過ぎ・偏った食事などを改善し、規則正しい食事を心掛けましょう。

ただし過敏性腸症候群の型によって、おすすめの食事療法は異なります。医師の診断の元、適した食事療法を実践することが重要です。

2-4. 運動療法

運動は自律神経を整え、結果的にストレスの緩和にも繋がります。交感神経と副交感神経が適度に切り替わり、心の不調改善に有効です。

負担にならない程度に、ウォーキングやランニング、ストレッチなどがおすすめ。ラジオ体操は全員の筋肉と関節をほぐしながら、適度に運動できます。また筋トレは、セロトニン(通称:幸せホルモン)という脳内の神経伝達物質が分泌されるため、精神安定や気持ちを高める効果があります。

いずれも過度に行うのではなく、あくまで気持ちが良い程度にしましょう。

2-5. 薬物療法

薬物療法の第一段階で使用するのは整腸剤です。腸内環境を整えることで、便秘や下痢を抑制します。市販で購入できるような一般的な薬を使用することが多いです。

次の段階として、「便秘型」と「下痢型」に適した治療薬を服用します。例えば便秘型には、粘膜上皮機能変容薬やセロトニン4受容体刺激薬が適します。下痢型には、高分子重合体や抗コリン薬がおすすめです。医師の診断の元、適した治療薬を受け取りましょう。

2-6. 心理療法

過敏性腸症候群はストレスや不安など、心の不調から発生する病気でもあるため、心理的なケアは重要です。ストレスや不安の種を特定し解消していくことが求められます。カウンセリングや心療内科・精神科での受診が有効です。

また心理療法の一環として、抗うつ剤や抗不安剤などが処方される場合もあります。心の病気は腸の病気に、腸の病気は頭痛など全身に病気に、と悪循環になるため、心理療法は有効な治療法です。

まとめ

過敏性腸症候群は、腹部の不調から頭痛・不眠など全身症状まで影響を与える病気です。心の不調が原因となる場合が多いですが、適した療法を実践することで改善に向かうこともあります。決して軽視せず、過敏性腸症候群と向き合い、医師の診断の元、適した治療を行うようにしましょう。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。同年、博士号取得。
1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員