【コラム】プレゼンティズムとは?原因・企業に与える損失・対策を解説

従業員の健康を対象とした投資収益率を測定する指標として、プレゼンティズムがあります。
本記事では、プレゼンティズムに関して、用語の意味・原因から、企業に与える損失や対策方法まで幅広く解説していきます。

1. プレゼンティズムとは

プレゼンティズム(presenteeism)は、直訳すると「疾病出勤」であり、日本において使用される場合、「出勤しているが、心身の不調でパフォーマンスが落ちている状態」を指します。プレゼンティズムが発生している従業員にとって、出勤および業務稼働は多少の無理をしている状態であるため、ケアレスミスや生産性の低下に繋がりやすいです。

企業にとってプレゼンティズムは可視化しづらいため、重要視されていない指標でした。しかし、近年活発になりつつある健康経営の推進や、投資収益率という指標の重要性が高まったことにより注目され始めました。

※同列課題として捉えられている「アブセンティズム」に関しては、『アブセンティズムとは?原因・労働生産性との関係・対策方法を解説』にて詳細に解説しています。合わせてご確認ください。

1-1. 測定方法

「個人の心身の状態」を指すので、一見すると数値化できない指標に思われますが、プレゼンティズムは測定可能です。

経済産業省が公表している「健康投資管理会計ガイドライン」では、以下の5つの測定方法を紹介しており、いずれもプレゼンティズムの発生状況の把握に繋がります。

・WHO-HPQ

・東大1項目版

・WLQ

・WFun

・QQmethod

いずれも共通しているのは、従業員に特定の質問をし、その回答をもとにプレゼンティズムの測定をすることです。
※詳細は『プレゼンティズム・アブセンティズムを数値化!測定方法を解説!』で解説しているので、こちらも合わせてご確認ください。

1-2. プレゼンティズムが発生する主な原因

従業員がプレゼンティズムを発生させることの多い身近な原因は、例えば以下が挙げられます。

・頭痛

・アレルギー(日本では花粉症が多い)

・発熱

・鼻づまり

・関節痛

・胃腸の不良

・うつ

特に頭痛は、低気圧や生理痛に関連して発生することが多く、多くの人にとって身近なプレゼンティズムの発生原因です。また、日本の国民病とされる、スギやヒノキなどの花粉症も、多くの人を悩ませています。

そして、頭痛や発熱、鼻づまりなどを引き落とす根本的な要因として、二日酔い、睡眠不足、運動不足、生活習慣の乱れ、ストレスなどがあります。

2. プレゼンティズムが企業に与える損失

プレゼンティズムは可視化できないため軽視されやすいですが、企業への損失が大きいとされています。

具体的に損失を考えてみましょう。例えば、プレゼンティズムが長引いた社員が退職してしまうリスクがあります。プレゼンティズムが長期化すると、その原因を企業に向けるケースは珍しくありません。そして退職となれば、採用コストや人材育成コストが回収できずに損失となります。

他にも、プレゼンティズムによって通院や入院が増え、企業の医療費・保険費用が増加するリスクがあります。また組織としての人材不足にも繋がり、チームの生産性が低下するリスクも否定できません。そして、結果的に個人・チームの士気や業務量が落ち込み、企業全体としての生産が低下する可能性も高いです。

プレゼンティズムを放置することは、直接的な企業の損失に繋がるということを、企業の経営者や組織の上長はあらためて認識しておく必要があるでしょう。

3. プレゼンティズムの改善に企業が取り組むメリット

企業への損失に繋がるプレゼンティズム。企業は改善に取り組むべきです。
例えば、改善することで以下のメリットがあります。

・生産性の向上

・退職者の削減

・企業イメージの向上

・医療費、保険費用の削減

それぞれ詳細に見ていきましょう。

3-1. 生産性の向上

従業員の心身の不調が改善され、自らの業務に集中できるようになります。結果的に、従業員個人の労働意欲向上や、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がり、最終的には企業全体の生産性が向上するでしょう。

生産性の向上は、新しいシステムを導入することや、優秀な人材を確保することが、分かりやすい改善策とされます。しかし、プレゼンティズムの改善も大きな効果を発揮するでしょう。

3-2. 退職者の削減

「自分の不調にも目を向けてくれて、さらに改善に向けた対策も行ってくれた」という信頼向上により、企業へのロイヤリティが高まり、退職者の減少効果が期待できます。

退職者の減少は、採用コスト・人材育成コストの減少に大きな効果を発揮します。退職者が多く、コスト増に困っている企業は、プレゼンティズムに課題があるかもしれません。改善に取り組み、退職者を減らせるように努めましょう。

3-3. 企業イメージの向上

「従業員個人の心身にも目を向ける企業」というイメージが定着し、採用活動の好循環に繋がる可能性があります。

ただし、プレゼンティズムの改善を通して得られた確かな実績は必須です。また、従業員からの口コミを参考に、内外部への発信も行う必要があるでしょう。

3-4. 医療費・保険費用の削減

従業員の通院や入院の割合が減り、企業が負担しなければならない医療費や保険費用を削減することができます。

4.プレゼンティズム改善の具体策

プレゼンティズムは改善に取り組むことで、多くのメリットを享受可能です。
次に、プレゼンティズム改善の具体策を見ていきましょう。

4-1. 健康経営の推進

具体策1つ目は、健康経営の推進です。

健康経営とは、企業が従業員の健康維持を経営重要項目の1つと捉え、積極的に改善・サポートに取り組むことです。近年その重要性が注目され始め、行政のサポートも充実し、実施する企業も増えています。

そして、健康経営を推進する中で、プレゼンティズムの改善は重要項目の1つに数えられます。従業員の健康を重要な経営課題と捉え、健康経営を推進することで、プレゼンティズムの改善が見込めるでしょう。

4-2. 定期的なプレゼンティズム測定

具体策2つ目は、定期的なプレゼンティズムの測定です。

実施することで、現在の企業全体のプレゼンティズムの発生割合を把握でき、できるだけ早く対策を講じることが可能です。また不定期の測定では、一定期間のデータを収集できないため、次に活かせる測定結果になりづらくなります。

頻度は半年~1年に1回の測定が良いでしょう。

4-3. 従業員・企業でサポートしあう意識を養う

具体策3つ目は、従業員・企業でサポートしあう意識を養うことです。

プレゼンティズムが発生する要因の1つ「ストレス」は、人間関係や職場の働く環境をきっかけとして蓄積することが多いです。他にも「花粉症」を原因とする不調で悩んでいる人は、花粉症ではない人の気配りなくして改善はできません。頭痛で悩む人が多いなら、対策グッズの設置や、上長から相談に乗り、休みを取りやすいよう助言をすることも重要です。

従業員と従業員同士、従業員と企業の間、で助け合わなければ、本質的なプレゼンティズムの改善は難しいでしょう。サポートしあう意識を養うことも重要です。

さいごに

プレゼンティズムは、今や全ての企業が取り組むべき経営課題と言っても過言ではありません。発生率などの「現状」や、改善した「結果」が数字として見えづらいですが、ここまで解説した通り、企業の損失削減や生産性向上に繋がることは間違いないでしょう。

まずはプレゼンティズムとは何かを把握し、そのうえで一度取り組みを進めることが重要です。健康経営の促進を検討している、低い生産性に悩んでいるといった事業者様は、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者 あきらめない頭痛クリニック院長田村正年

1957(昭和 32)年 9 月 15 日、⾧崎県佐世保市生まれ。
1976(昭和 51)年、佐世保西高校卒、1985(昭和 60)年、鹿児島大学医学部卒。
1987(昭和 62)年、県立大島病院、1989(平成元)年、静岡東てんかんセンター、1990(平成 2)年、鹿児島県立北薩病院勤務。
1992(平成 4)年。脳神経外科専門医取得。同年、加治木大井病院脳神経外科部⾧、1995(平成 7)年、金丸脳神経外科勤務。同年、博士号取得。
1997(平成 9)年、徳田脳神経外科部⾧として勤務。
2001(平成 13)年、田村脳神経外科開業。
2023(令和 5)年 11 月20日、福岡市博多区に「あきらめない頭痛クリニック」を開院。

<所属学会>
国際頭痛学会、日本頭痛学会、日本東洋医学学会、日本てんかん学会、 脳神経外科学会評議員、脳卒中の外科学会会員、日本脳血管内治療学会会員、 日本脳神経学会コングレス会員