脳幹前兆を伴う片頭痛(Migraine with brainstem aura)
定義と背景
脳幹前兆を伴う片頭痛は、かつて「脳底動脈片頭痛」「基底型片頭痛」と呼ばれていたが、血管障害が原因であるかのような誤解を招くため、現在は「脳幹前兆を伴う片頭痛」と呼ばれる。1961年にBickerstaffが報告し、長らく血管性機序が想定されていたが、現在では神経性機序による片頭痛の一亜型と理解されている。
疫学
思春期女性に多いとされるが、すべての年齢層でみられる。一般的な片頭痛と同様に女性優位である。
臨床症状
前兆は脳幹あるいは大脳半球両側に由来し、可逆的で通常60分以内に消失する。
視覚症状:閃輝暗点、ジグザグ光
感覚症状:顔面・上肢のしびれ
言語症状:失語、言葉が出にくい
さらに脳幹症状を伴う:
構音障害
めまい、複視
耳鳴り、難聴
運動失調
意識障害 など
※片麻痺や網膜症状は含まれない。
診断
ICHD-3の診断基準に基づく。発作性疾患(てんかん)や他の一次性頭痛(片麻痺性片頭痛、典型的前兆片頭痛)との鑑別が必要で、頭部MRI/MRAや脳波検査が行われる。
治療
急性期:NSAIDs、制吐薬(フェノチアジン系)
予防薬:トピラマート、ベラパミル、ラモトリギンなど。β遮断薬は避けられることが多い。
トリプタン、エルゴタミンは原則禁忌とされてきたが、安全性に関する報告もあり、依然として慎重な判断が必要。
予後
症状は強く恐ろしいが、脳卒中リスクが特に高いわけではない。前兆を伴う片頭痛全般においては脳卒中リスクがわずかに上昇するため、危険因子の管理が重要である。